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東京地方裁判所八王子支部 平成9年(ワ)1988号 判決 1998年4月16日

原告

依田恭子

被告

氷見尚秀

主文

被告は原告に対し、二〇〇〇万円及びこれに対する昭和六一年七月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

主文第一、二項と同旨

第二事案の概要

本件は、バス停留所でバスから降車して同バスの後部付近から道路を横断しようとした原告に加害車両運転の被告が衝突させた事故につき、原告が被告に対し自賠法三条に基き損害金の支払(但し、一部請求)を求めた事案である。

一  争いのない事実及び証拠上容易に認定できる事実

1  本件交通事故の発生

(一) 事故の日時 昭和六一年七月一一日午前八時三七分頃

(二) 事故の場所 東京都府中市八(ママ)二四一番地先路上

(三) 加害者 被告(加害車両を運転)

(四) 加害車両 原動機付自転車(八王子市そ八〇〇五)

(五) 被害者 原告

(六) 事故の態様 被告は、加害車両を運転して右路上を府中市方向から小金井市方向に向かい進行中、加害車両を府中第二小学校前停留所で停車したバスから降車し、同バスの後方に回り右道路を横断中の原告に衝突させた。(甲四、五の一ないし四、弁論の全趣旨)

(七) 事故の結果 頭部外傷、急性硬膜外血腫の障害を負った。

2  治療経過

原告は、昭和六一年七月一一日から同年八月二八日までの二九日間武蔵野赤十字病院に入院し、以後平成元年一〇月まで週三日間同病院に通院し、同月一七日から今日に至るまで東京女子医科大学病院に外傷性テンカン治療のために通院し、この間の平成四年一月一日から同年七月三一日までの二二二日間(但し、実通院日数六二日間)外傷性テンカン、拒食症治療のために東京厚生年金病院に通院した。

3  責任原因

被告は、加害車両を所有し、これを自己のために運行の用に供していたから自賠法三条に基づき原告に生じた損害を賠償すべき責任がある。

二  争点

1  損害額

(一) 治療費関係

(原告の主張)

治療費関係合計額 五〇万八〇二〇円

(内訳)

付添費 一七万四〇〇〇円

(入院期間二九日で一日当たり六〇〇〇円)

入院雑費 三万七七〇〇円

(入院期間二九日で一日当たり一三〇〇円)

通院交通費 二九万六三二〇円

(二) 逸失利益 四二八八万七八四八円

原告の後遺障害は、自賠責保険法施行令別表後遺症害等級第五級二号に該当し、労働能力の七九パーセントを喪失した。

したがって、逸失利益は、本件事故時の年齢は一六歳、平成七年産業計、企業規模計、学歴計、女子労働者の全年齢平均賃金は三二九万四二〇〇円、一六歳から六七歳までのライプニッツ係数は一六・四八〇であるから、四二八八万七八四八円となる。

(三) 慰藉料 一七一三万円

入通院慰謝料として四一三万円、後遺症慰謝料として一三〇〇万円が相当である。

2  過失相殺

(被告の主張)

本件事故の態様などを考慮して原告の過失割合は三〇パーセント、被告の過失割合は七〇パーセントとするのが相当である。

第三争点についての判断

一  損害について

1  治療費関係 五〇万八〇二〇円

(内訳)

(一) 付添費 一七万四〇〇〇円

原告の前記病院入院中の付添看護料としては一日当たり六〇〇〇円が相当と認められる。(弁論の全趣旨)

(二) 入院雑費 三万七七〇〇円

入院期間二九日間の一日当たりの入院雑費は一三〇〇円が相当と認められる。(弁論の全趣旨)

(三) 通院交通費 二九万六三二〇円(弁論の全趣旨)

2  慰謝料 一七〇〇万円

本件交通事故の態様、原告の受傷内容と治療経過、後遺障害の内容・程度、職業、年齢等本件に現われた諸事情を考慮すると、原告の入通院慰謝料としては四〇〇万円、後遺障害慰謝料としては一三〇〇万円が相当と認められる。

3  逸失利益 四二八八万七八四八円

原告の後遺障害の程度は、自賠法施行令二条別表五級に該当すると認められ(甲二)、このことと、原告の年齢、職業、障害の部位等を考慮すると、原告は、本件交通事故により、平成七年五月七日、労働能力を七九パーセント喪失し症状が固定し、この喪失割合は、稼働可能と見込まれる六七歳までの四九年間変化がないものと推認するのが相当である。

そうすると、平成七年賃金センサス第一巻第一表の産業計、企業規模計、学歴計、女子労働者の全平均賃金三二九万四二〇〇円を用い、ホフマン方式により中間利息を控除し、後遺障害逸失利益の本件交通事故当時の現価を算出すると、四二八八万七八四八円(円未満切捨)となる。

(三二九万四二〇〇円×一〇〇分の七九×一六・四八〇)

二  過失相殺について

被告は、加害車両を運転して進行方向右前方のバス停留所で停車したバスを認めたのであるから、道路を横断する降車客の有無を確認して進行すべき注意義務があったのに、これを怠り、本件交通事故を惹起させた(甲四、五の一ないし四、弁論の全趣旨)のであるから、重大な過失があるというべきである。

他方、原告も、バスを降車して道路を横断するに際しては通行車両の有無などを確認して横断すべき注意義務があったのに、これを怠り、降車したバスの後部付近から道路を横断しようとして本件交通事故を惹起させた(甲四、五の一ないし四、弁論の全趣旨)のであるから、重大な過失が存したというべきであり、以上の被告の過失と原告の過失の双方を対比して勘案すると、本件交通事故で原告の被った損害についてはその三割を過失相殺によって減ずるのが相当である。

そうすると、原告の過失相殺後の損害額は、四二二七万七一〇七円(円未満切捨)となる。

三  損益相殺

原告は、自賠責保険から一三八三万円の支払を受けた。

四  弁護士費用

本件事案の内容、審理経過及び認容額等の諸事情に鑑み、原告の本件訴訟追行に要した弁護士費用は、一五〇万円が相当であると認める。

(裁判官 林豊)

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